魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
「オティリエ……オティリエ!」


 ポタッと温かな液体が頬に落ちてきた。それはまるでオティリエの身体に優しく染み渡るかのよう。次いで身体が軋むほどギュッと抱きしめられ、オティリエは思わず笑みをこぼす。


「ヴァーリック様……泣かないで。私はもう大丈夫ですから」


 オティリエがつぶやく。ヴァーリックは彼女の頬をなで、ぬくもりをしっかりとたしかめたあと、もう一度力強く抱きしめた。


【オティリエ】


 心と身体に響き渡るヴァーリックの声が心地よい。

 頬に、額に、まぶたに口づけられ、ふわりと身体が軽くなる。どちらともなく重なる唇。鉛のように重かった心が軽くなり、イアマの声が完全に聞こえなくなる。まるで頭を覆っていたモヤがサッパリと消え失せたかのよう。オティリエの瞳から涙がこぼれ落ちる。


「ヴァーリック様……」


 唇が離れたあと、オティリエはヴァーリックのことをそっと見つめた。泣き濡れた頬。愛しさがグッとこみ上げる。


「あなたが呼んでくださったから……ヴァーリック様の声が聞こえたから、私はここに戻ってこれたんです」


 いつだってオティリエを導き支えてくれる声。温かな人。
 あんなにうるさかったイアマの声はもう聞こえない。ヴァーリックがいるから。ヴァーリックを幸せにしたいと願うから。


「愛してるよ、オティリエ」


 二人は互いを見つめ、泣きながら笑うのだった。


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