魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
***


 その後、夜会は予定通り執り行われた。魅了の影響が懸念されたものの、オティリエ自身の強い希望を尊重した形だ。


「本当に大丈夫? 無理せず日を改めたほうが……」

「大丈夫です。むしろさっきより元気になったんじゃないかって思うぐらいですから。ヴァーリック様と……このブローチのおかげですね」


 オティリエはそう言って胸元のブローチをそっとなでる。
 父親からもらった母親の形見の青いサファイア。けれど今、石は色を失って透明に変わってしまっている。

 なんでもサファイアには魔除けの効果があるらしい。大切な人を守りたいという想いが込められた宝石。オティリエが欲しくてたまらなかった両親の愛情が彼女を守ったのかもしれない――ヴァーリックからそう聞かされて、オティリエはまた少しだけ泣いてしまった。


 夜会がはじまると、オティリエはヴァーリックの婚約者として貴族たちに紹介された。


「まぁ……とっても愛らしいわ」
「補佐官としても優秀らしいぞ」
「神殿の一件を解決に導いたのもオティリエ様なのでしょう? 素晴らしい功績ね」


 その美しく堂々とした姿に人々は感嘆のため息を漏らす。
 なにより、二人の仲睦まじさは見ていてとてもほほえましく、この国の未来は安泰だと人々は口々に称賛した。


 それから、すべての元凶であるイアマはというと、オティリエを陥れるために己の能力と気力をすべて使い果たしてしまったらしい。魂の抜け落ちた人形のようになってしまった。

 まるで夢の中に迷い込んだかのように時々うわ言をつぶやき、自分が誰なのか、どこにいるのかすら理解できていない。今後彼女が自我を取り戻すことはないだろう。山奥の収容所に幽閉され、ひっそりと生きている。


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