魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
【――どうなっているの!? ヴァーリック殿下ったら、全然わたくしに魅了されている感じがしないわ! さっきから何度も何度も目を合わせているはずなのに! こんなこと、今まで一度もなかった! どうして!? どうしてなのよ!】


 と、イアマの声が聞こえてくる。絶叫にも似た声。どうやら焦っているらしい。


【このままじゃ埒が明かないわ。もっと殿下に近づかないと】


 そう聞こえるやいなや、イアマはフラリと体勢を崩した。ヴァーリックがイアマを抱きとめる。彼女は下を向いたままニヤリと口角を上げた。


「まあ、ヴァーリック殿下……申し訳ございません。少し、立ちくらみがしてしまって」


 イアマがゆっくりと顔を上げる。これまでよりもヴァーリックとの距離がずっと近い。


「助けていただいてありがとうございます。……それにしても、殿下の瞳って美しいですわ。わたくし、ついつい魅入ってしまって……もっと近くで見せてください。ああ、本当に息が止まってしまいそう」


 イアマはそう言って、ヴァーリックの頬にそっと触れる。彼の目元を撫でながら、ほぅと悩まし気なため息をついた。


【これなら絶対に殿下を魅了できるはずよ】


 極上の微笑みを浮かべつつ、イアマはヴァーリックに熱視線を送る。ヴァーリックは彼女の瞳を覗き込みつつ、ニコリと微笑み返した。


「それは大変だ。急いで屋敷に帰ったほうがいい」

「…………え?」


 その途端、イアマの笑顔が引きつる。ヴァーリックは近くにいた使用人を呼び、イアマを引き渡した。


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