魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(私は……ヴァーリック殿下に才能を認めてもらえた人たちが羨ましい)


 きっとそれがこの感情の名前。名前をつけた途端、なんとなく胸のモヤモヤが収まってくる。

 もしもオティリエが自分の能力をもっと上手く使えていたら、ヴァーリックに認めてもらえただろうか? 必要としてもらえただろうか? もっと彼の側にいられただろうか? そう思うと、なんだか身体がウズウズしてくる。


「あの……殿下は姉の能力について、どう思われましたか?」

「イアマ嬢の? そうだね……使いどころは多いと思うけど、僕は『欲しい』とは思わないな」

「そうなのですか?」


 オティリエには王族の仕事がどのようなものかはよくわからない。けれど、他人の精神を操作できるイアマの能力は便利に違いないだろう。あまりにも意外な返答に、オティリエは驚いてしまった。


「どうして必要ないのですか?」

「だって、欲しいものは自分で手に入れたほうが面白いだろう?」


 ヴァーリックはそう言って屈託のない笑みを見せる。オティリエの心臓がドキッと鳴った。


「魅了や洗脳で無理やり言うことを聞かせるんじゃなくて、きちんと納得して、自分の意志で僕についてきてほしい。だから、イアマ嬢の能力は僕には必要ない。魅力的だとも思わないんだ」

「……そうですか」


 オティリエはそう返事をしつつ、どこかホッとしてしまう。


(じゃあ、私の能力は?)


 そう尋ねられたらどれだけいいだろう。けれど、今はまったく自信がない。


(それでも)


 この機会を逃せばこの気持ちを伝えることすらできなくなってしまうだろう。オティリエは大きく深呼吸をし、ヴァーリックに向き直った。


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