魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(ほんの一瞬……本当に一瞬だったけれど、お父様が私に優しくしてくださった)


 こんなささいなことがオティリエにはあまりにも嬉しい。オティリエは目頭が熱くなった。


「それじゃあ侯爵、またいずれ」


 ヴァーリックがそう言って馬車に乗り込む。それから、二人を乗せた馬車がゆっくりと王都に向けて動き出した。


「……最後に屋敷を見ておかなくていい? 僕はもう、君をあの家に戻す気はないよ?」


 段々と屋敷が遠ざかっていく。オティリエが首を横に振ると、ヴァーリックは穏やかに微笑んだ。


「そう。オティリエが構わないならそれでいいよ」


 ヴァーリックはそう言って彼女の手をギュッと握る。オティリエの頬が赤くなる。ヴァーリックはニコリと笑みを深めつつ、彼女の瞳をじっと見つめた。


「それより、これからは補佐官になるんだし、僕のことは殿下じゃなくて名前で呼んでほしいな」

「え? でも……」


 オティリエからすればおそれおおい。『はいどうぞ』と言われていきなり切り替えるのは困難だ。


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