魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(嫌、じゃないけど)


 恥ずかしいしドキドキする。そのせいできちんと頭が働いているかも不安だ。
 けれど、緊張で震える指先が、心が、彼のおかげで落ち着いているのもまた事実で。


(どうしよう、どうするのが正解なの?)


 誰かと触れ合ったり会話をしたりする経験が乏しすぎて、どうすればいいのかちっともわからない。オティリエは考え込んだまま真っ赤になってしまった。


「あぁ……困らせてごめん。オティリエの反応があまりにも可愛くて」

「……!」


 こらえきれないといった様子でヴァーリックが笑う。彼は名残惜し気に手を離したあと、オティリエの頭をそっと撫でた。


「城に着いたらまず、オティリエの部屋に案内するよ」

「私の部屋、ですか?」

「そう。住み込みで働いてもらう使用人のための部屋があるから、取り急ぎ一室用意させたんだ。これからどんなところで生活をするか、先に確認しておきたいだろう?」


 ヴァーリックがオティリエに問いかける。彼女自身は別にどんな部屋でも構わないけれど、気遣いが嬉しい。オティリエは「ありがとうございます」と頭を下げた。


「昼からは他の補佐官に城内を案内させるよ。そのときに各部署への挨拶も一緒に済ませてきて。今後僕への取次はオティリエに任せるから、顔と名前を覚えてもらわなきゃね」

「わ……わかりました」


 段々、これからオティリエがすべきことが具体的になっていく。オティリエは気が引き締まる思いがした。


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