魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢は、この度王太子の補佐官に選ばれました!
(今の……エアニーさんの声よね?)


 けれど、心の声とは裏腹に、エアニーは涼し気な表情のままだ。もしかしたら聞き間違えだろうか? オティリエはそっと首をひねった。


「そういうわけだから、エアニーはオティリエと一緒に働くのが嫌なんてことはないから、安心して」


 ヴァーリックが言う。オティリエがそろりとエアニーのほうを見つめれば、彼は無表情のままコクリと小さくうなずいた。


「たった半日のあいだに部屋や侍女の手配をしてくれたし」

【ヴァーリック様のお望みですから当然です】

「僕がオティリエの事情を話したら仕立て屋を呼んでくれたし」

【ヴァーリック様の隣に立つ人間にみっともない格好をさせるわけにはいきませんから】

「いつもいろんなことを先回りして用意してくれるんだ。本当に優秀な補佐官だよね」

【ヴァーリック様の補佐官ですから! 当然のことです】


 オティリエはヴァーリックの声とエアニーの心の声とを交互に聞きつつ、思わず感心してしまう。


(エアニーさんはヴァーリック様のことを敬愛しているのね)


 いや、敬愛より崇拝といったほうがいいだろうか? オティリエ自身、ヴァーリックには底しれぬ恩義を感じているし心から慕っているものの、彼とは桁違い――熱量が違うと感じてしまう。


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