弔いのグラタン
 少女のような人だった。

 あの花、何て名前なんだろう。葉っぱはクローバーで、その季節になると白とピンクの花を咲かせる。マユミサンの笑った顔は、ピンクの方に似ていた。

『ショーチャン、ショーチャン。
どうして、ショーチャンの足の指毛はこんなにスパイラルしてるのよう』

 ピンク花の笑顔と、ハスキーな声がギザギザハートのペンダントのようにカチリとうまい具合にはまっていた。

 私も、弟も、一緒になって、笑っていたのだ。

 
 
 耐熱ボウルにバターを入れる。
 電子レンジの中へ。
 薄力粉を軽量カップで正確に量る。



 しかし、マユミサンは、れっきとした大人の女性だった。

『私は、ミーチャンとフークンを怒る資格なんてない。
だけどね、二人が悪いことをしたら、注意するからね』

 その言葉は心地のいい重さだった。その証拠に、心の隙間に年月をかけて溜まったナミダをものともせず、すうっと、底に沈んでいった。
 
 今だから思う。この言葉で、私は、マユミサンを認めたんだ。

 そう言えば、私は『ミーチャン』と呼ばれていた。曖昧な記憶だけれど、初めて会った時からだったように思う。



 レンジの中から耐熱ボウルを取り出す。
 いい具合に溶けている。
 そこに薄力粉を入れる。
 泡だて器でぐるぐるぐるぐる。
 ここでダマができたら駄目なのだ。

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