弔いのグラタン
2
私はそれまで、手作りのから揚げを食べたことがなかった。
スーパーで橙色の光に当たっている、もう冷めてしまったから揚げしか食べたことがなかった。
だから、から揚げは嫌いだった。スーパーのから揚げは、やはり、スーパーの味がするのだ。
『こんなの簡単なんだよ。一緒に作る?』
この日は、始めてマユミサンが、かつての家に泊まった日だったと思う。
いまだ、夢の中では、この『かつての家』しか登場しないのは、また別の話。
いつも使っていた台所が、なんだか明るくなった気がした。気がしただけ。蛍光灯は、内側のわっかが切れたままだったから。
振り向くと、つけっぱなしになったテレビの前で、弟が、目を細めてこっちを見ていた。
もともとたれている目じりに更に角度をつけて、すごく、すごく、嬉しそうだった。
そうだ。弟は、あんなふうに笑うんだった。最後に見たのはいつだっただろう。
私が初めて食べたマユミサンの手料理。
付き合った男にまず作るのは、ニンニクがきいたマユミサン味のから揚げなのだ。
牛乳を量る。
さっきの計量カップで。
洗わなくていい。
どうせ薄力粉と牛乳は、一緒になるんだ。
泡立て器でぐるぐるぐるぐる。
再びレンジの中へ。
あ、たまねぎ、炒めるの忘れた。