弔いのグラタン

 私はそれまで、手作りのから揚げを食べたことがなかった。
 スーパーで橙色の光に当たっている、もう冷めてしまったから揚げしか食べたことがなかった。

 だから、から揚げは嫌いだった。スーパーのから揚げは、やはり、スーパーの味がするのだ。

『こんなの簡単なんだよ。一緒に作る?』

 この日は、始めてマユミサンが、かつての家に泊まった日だったと思う。
 いまだ、夢の中では、この『かつての家』しか登場しないのは、また別の話。
 
 いつも使っていた台所が、なんだか明るくなった気がした。気がしただけ。蛍光灯は、内側のわっかが切れたままだったから。

 振り向くと、つけっぱなしになったテレビの前で、弟が、目を細めてこっちを見ていた。

 もともとたれている目じりに更に角度をつけて、すごく、すごく、嬉しそうだった。

 そうだ。弟は、あんなふうに笑うんだった。最後に見たのはいつだっただろう。

 私が初めて食べたマユミサンの手料理。

 付き合った男にまず作るのは、ニンニクがきいたマユミサン味のから揚げなのだ。

 

 牛乳を量る。
 さっきの計量カップで。
 洗わなくていい。
 どうせ薄力粉と牛乳は、一緒になるんだ。
 泡立て器でぐるぐるぐるぐる。
 再びレンジの中へ。
 あ、たまねぎ、炒めるの忘れた。

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