おもてなしは豪華客船の学園で

第2話 バトラーになれ!

〇海原
  波しぶきをあげて進む豪華客船。
テロップ「私立鳳凰学園の実習船・鳳凰Ⅱ」

〇鳳凰Ⅱ・船内・客船エリア・レストラン・ホール
  他の学生たちにまじって桜、千夏、結衣が接客をしている。
テロップ「おもてなし科 接客実習」
  来店した外国人客を案内する桜。
桜「(英語)いらっしゃいませ。3名様ですね。現在、窓際のお席が空いておりますがそちらでよろしいでしょうか?」
  その様子を見て感心する千夏と結衣。
千夏「はー、接客も慣れたもんだし、語学力も大したもんだわ。同じ1年生とは思えない」
結衣「日本でも指折りの老舗旅館の娘ですからね。サラブレッドなんです」
  テーブルから食器を片付ける。

〇同・学園エリア・中庭テラス
  芝生や植栽など学校の中庭をイメージしたテラス。
テロップ「学園エリア 中庭テラス」
  桜、千夏、結衣が芝生に座っている。
千夏「桜ってあんなにできるのに何で私たちと同じ成績下位のグループCなの」
桜「何、突然」
千夏「だってさ、桜の実力なら上位目指せるのに。グループSに入ったら、私たちも皆さまにお近づきになれるのよ?」
桜(心の声)「(ジト目)それかい!」
桜「それは無理。実習は最低限しかとってないし、バイト入れまくってるから」
千夏「グループSは望み薄か…。せめてバトラーになれたらいいのになあ」
桜「バトラー?」
千夏「(あきれて)桜ってホントそういうの興味ないのねぇ」
結衣「バトラー、つまり専属執事役をすることで視野も広がり経験も積めるという実習です。グループSの特権でメンバーから下級生が選任されます」
桜「何だ、ていのいい使用人か」
千夏「(おののく)ななんてことを言うの⁉ バトラーになったらグループSメンバーにお近づきになれるし、一部のVIP施設も使用する権限も与えられるのよ⁉」
結衣「現状、誰も選出していないのは蓬莱先輩一人です。狙い目です!」
桜(心の声)「金になるバイトのほうがマシだ」

〇同・船内・客船エリア・サロン
  貴族の邸宅にあるような広い談話室。
  外国人相手に蓬莱と小鳥遊が歓談をしている。
テロップ「社交科 会談実習」
蓬莱「(英語)日本の盆踊りはユネスコの無形文化遺産に登録されることが決まったんですよ」
小鳥遊「(英語)有名な風流踊りに岐阜県の郡上踊りがありますが、徹夜で踊ります」
外国人「(英語)ぜひ見てみたいですね!」

〇同・客船エリア・船内の廊下
  歩いて来る蓬莱と小鳥遊。
小鳥遊「終わった終わった」
蓬莱「英語の発音、間違っていたぞ」
  すれ違う女子生徒たちが羨望の眼差しで見つめるが蓬莱は無視。
  小鳥遊は手を振って愛想を振りまく。
  そこへ小鳥遊のバトラーがやってくる。
小鳥遊のバトラー「小鳥遊さん、来週の実習の資料です」
  書類と書籍を渡す。
小鳥遊「ありがとネ~」
  会釈して去っていく女子生徒に手を振る。
蓬莱「彼女は小鳥遊のバトラーか」
小鳥遊「最近任命してね。有能だよ。大翔も誰か任命したら?」
蓬莱「適任がいない」
小鳥遊「紅茶くらい淹れてもらえるぞ。あっ、あのブラガンザのバイトの子はどう? 美味しい紅茶、毎日飲めるぞ」
蓬莱「それ以外の能力が優れているとは限らない」
小鳥遊「でも来週、グループSは国賓実習だろ? 準備もあるしバトラーでなくても助手は必要じゃないか?」
大翔「考えておく」

〇同・学園エリア・蓬莱の部屋の前(夜)
  ドアに「C402」と書かれたプレート。

〇同・蓬莱の部屋の中(夜)
  上質なベッドとソファなどがしつらえられたスイートルーム並みの部屋。
  デスクで蓬莱がPCに向かっている。
蓬莱「国賓実習では他国の要人を招待することを想定した実習だ。会談だけでなく、夕食、親睦を深めるアクティビティなど、おもてなしの総合力が必要となる」
  思案しながら立ち上がる。
蓬莱「おもてなしに精通したバトラーがいればいいのだが…」
  時計を見ると18:59。
蓬莱「そろそろだな」
  ソファに腰掛ける。
蓬莱「ブラガンザのブレンドティーが飲みたいが、船上ではない物ねだりだな」
  自嘲する。
蓬莱「せめて彼女が淹れた紅茶で我慢するとしよう」
  時計が19:00になった瞬間、ドアベルが鳴る。
蓬莱「一秒の誤差もない。大したものだ」
  軽く驚く。
  ドアを開けるとティーセットを持った桜。
桜「お待たせいたしました」
  リビングテーブルにティーセットを置く。
桜「失礼いたします」
  頭を下げ、退出しようとする。
蓬莱「待て」
  驚きの表情でティーポットを見つめる
桜「どうかいたしましたか?」
蓬莱「この香りは…」
桜「ブラガンザオリジナルのブレンドティーでございます」
蓬莱「どうしてこれを⁉」
桜「お客様がお店でいつも注文なさるので、私個人の手持ちのものではありますが提供させていただきました」
  にっこりと答える。
蓬莱「なぜだ⁉」
  真顔になる。
蓬莱「君は俺のことは知らないはずだ。店では変装しているからな」
桜「声です」
  当然という表情で答える。
蓬莱「何?」
  真意を測りかね、怪訝な顔をする。
桜「私はお客様の声を覚えています。声質だけでなく、話し方の特徴や癖など。プールサイドで私に話しかけた時にブラガンザのお客様と気がつきました」
蓬莱「そんな…嘘だろ」
  驚きと感心でしばし言葉を失う。
蓬莱「ブラガンザの客の声は全員覚えているというのか⁉」
桜「もちろんです」
  気品の中に自信を含んだ笑顔を見せる。
蓬莱「そこまでする必要があるのか⁉ 街の小さなティールームだぞ!」
桜「場所も規模も関係ありません。それが私のおもてなしだからです」
  穏やかな微笑。
蓬莱「矜持ということか…」
  笑みを浮かべる。
桜「それでは失礼します」
  ドアへと歩きだす桜の手首をつかんで引き戻す蓬莱。
  バランスを崩してソファにもたれる桜。
蓬莱「俺のバトラーになれ!」
蓬莱が身を寄せる。
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