kissしてサイキック‼~無能力者のハズの私が生徒会に溺愛される⁉~

15:ペアの相手は

 翌日の放課後。朔と生徒会室に向かうと、なんとそこには。

「…………ちっ」

 未来空先輩がいた。

「あ、来たね。一年生も揃ったようだし、定期パトロールのパートナーを発表しよう」
「定期パトロールのパートナー、ですか?」
「最近、下校中の我が校の生徒の頭上に危険物が落下してくる事件が多発していてね」
「あぁ、確かそんなことを皆川先生が話していたような……花瓶とか泥水とか……能力者による嫌がらせだろうって話でしたよね」
「青空学園は能力関係なく生徒を受け入れている。このご時世、そういった学園長の方針に反感を抱いている人間も少なくはない。そういう輩の仕業だろうね」
「雷雨学園の連中、とかね」

 不機嫌そうにポツリと呟くまい先輩。

「雷雨学園? あの名門校の?」
「能力は優秀かもしれないけど、あそこの連中は最悪! 能力至上主義者ばっかりで、度々こっちにいちゃもんつけてくるんだよ~。学園長同士も犬猿の仲みたいだし」

 能力至上主義。その言葉に私はぎゅっと拳を握りしめる。
 別に、そういう人達に迷惑をかけているわけではないのに、どうして無能力者はこんな風に攻撃されてしまうんだろう。どうしてそこまで他人を陥れることができるんだろう。

「そこで俺達生徒会の出番ってわけだ。青空学園周辺を二人組でパトロールをすることになった」
「な、なるほど! そのパートナー発表ですね!」

 そして、芥川先輩からパトロールのペアが発表された。



***



 未来空先輩と仲良くなりたいとは思っていた。
 でも、でも──まさかこんなすぐにチャンスが来るとは思わなかったよ!

「…………」
「…………」

 き、気まずい! ここはなんとか私から話しかけないと!

「み、未来空先輩はどうして今日生徒会に?」
「……あぁ?」

 ひぃいいっ! こ、ここ怖い!

「あ、いえ、未来空先輩が生徒会に来るのはメンバーだから当たり前なんですが! でも、いつも来ないから、今日は何かあったのかなって」

「別に。ルイさんにたまには出てこいって言われただけだ」

 ルイさん? ……あ、学園長の名前か! 未来空先輩、学園長の事、名前で呼んでるんだ。意外だなぁ。

「未来空先輩は学園長と仲いいんですね?」
「……聞いてねぇのか」
「え?」
「てっきりまいの奴がペラペラ喋ってやがると思ったが」

 ブツブツそんなことを言う先輩に私はキョトンとする。

「あの、どういう事ですか?話したくないなら聞きませんが」
「…………。俺は、学園長と暮らしている。あの人は俺の育ての親だ」
「っ!」

 じゃあ、未来空先輩に酷い扱いをしてきたっていう両親は……?
 知りたいけれど、そんなこと聞けるわけがない。なんだか空気がさらに重くなったような気がした。

「わ、私も……」
「あ?」
「わ、私も、育ての親に、育てられて、大切な幼馴染もいて! なんだか、似てますね、私達」

 ポロリと口が滑ってしまった。気を悪くしたかな。
 未来空先輩は横目で私を一瞥した。

「……自分の能力に気づくのが遅かったこともか」
「っ!」
「それはまいから聞いているみたいだな」
「す、すみません! 私、そういうつもりで言ったんじゃ!」
「あぁ。お前は嫌味とか皮肉とかそういった悪意を吐くことができねぇ奴だ。……それくらいは分かる」

 あ、あれ? 今、もしかして褒められた? 未来空先輩は相変わらずそっぽを向いている。
 もしかして、未来空先輩、本当は……。

 私はそんな先輩に釘付けだったのだが──その時、頭上に冷たい滴が一粒落ちてきた。

「え? 雨?」

 そう上を向いた瞬間。

「────っ! おいっ!」

 気づけば──未来空先輩の胸板が目の前にあった。
 ガチャンッと鋭い音が耳を襲う。
 でも、そんな事なんか頭に入らない。

 だって……だって、私、今……!!

「……ってーな……」

 ──未来空先輩に、抱きしめられている。

「……せ、先輩?」
「例の嫌がらせかよ。確かに悪趣味じゃねーか」
 
 未来空先輩はすぐに私から離れると、地面に散らばったガラスの破片を睨みつけた。私の頭上に落ちてきたのはガラスの花瓶だったようで、辺りは水浸しの上に花も散っていた。

「た、たたた助けていただいてありがとうございますっ! ほ、本当に……! もし未来空先輩が助けてくれなかったらどうなっていたか」

 私は背筋が凍った。
 未来空先輩はしばらく割れた花瓶を睨んだ後、舌打ちをする。

 あれ、今──瞬、今にも泣きそうな顔に──?
 しかし私が何かを考える前に、急に未来空先輩がしゃがみこんだのだ。

「…………あいつだ」
「え?」
「逃げねぇと、殴られる……! 殺される! 早く、俺の中に、入らねぇと……!」

 明らかに様子がおかしい。私は未来空先輩の両肩を掴んだ。

「先輩! 先輩! しっかりしてくださいっ!!」
「ひっ! 触るなっ!」

 未来空先輩は顔を真っ青にして、私の手を強く払った。
 我に返ったように私と自分の手を交互に見る。

「せ、先輩?」
「……っ。このことを、ルイさんにてめぇが報告しろ。あいつの犯行で間違いない、と言え」
「……え……?」
「……手、悪かったな」

 未来空先輩はそれだけ言い残すとよろよろと学校の方へ歩いて行った。
 私は何も言えず、ただ未来空先輩の背中を見守ることしかできなかった。

 今の、未来空先輩の怯えた顔が忘れられない。先輩は私が想像もできないような重い何かを背負ってる。
 そう確信した。
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