皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
だが相手はリオネルの義弟であり、十二歳の子ども。オスカーの場合とはわけが違う。


「皇帝陛下が大切に思われている弟君であらせられますから」


仲良くするのは当然だと暗に含める。
それに素直な性格のアンリは、エリーヌにとってもかわいい弟のようなものである。

性別こそ違うが、ランシヨンに残してきた義妹マーリシアに重ねている部分もあるだろう。


「なるほど。兄弟仲がよろしいのはなによりです」


口もとに笑みを浮かべたオスカーの目線が、ふとエリーヌの左手首に巻かれたバングルに注がれた。


「それが、かの透明な魔石。……美しいですね」
「美しいだなんて。なんの魔力もない、ただの石ですから」


オスカーもその件については知っているはずだ。
魔石保持者からすれば、意味のない石ころ。なんの魅力もないものである。
それなのにオスカーが目を細めて見入っているため、気まずくてエリーヌはまくっていた袖を下ろして石を隠した。
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