皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
馬に乗って警護しているニコライやセバスカルと並んで走るのもいいだろう。

セバスカルはニコライと同様に魔法騎士団に所属しており、その手首には木属性である緑色の魔石が輝く。ニコライよりふたつ年下でひょろりとした華奢な体躯をしているが、魔力は騎士団の中でも上位だという。


「失敬な。僕の乗馬の腕前は訓練なんか必要ないほどさ」


アンリは不服そうに胸の前で腕を組んだ。


「失礼いたしました。ですが馬車では退屈ではございませんか?」
「エリーヌとおしゃべりしながらなのに退屈なわけがないだろう? それともエリーヌがつまんないって言いたいの? ひとりで乗るほうがよかった?」
「いいえ、私もアンリ様とのおしゃべりはとても楽しいですから。そうおっしゃっていただけて光栄です」


駄々を捏ねるようなアンリの口調がかわいいと思うのは、やはり弟のように感じるからだろう。不意にマーリシアが恋しくなる。


「そういえばエリーヌを瑠璃宮の前で待っているとき、オスカー大公に会ったんだ」
「大公殿下に? ……なにか言われましたか?」
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