皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
強く否定したためか、着替えに取り掛かったアガットが驚いて目をまたたかせる。


「私、魔法が使えないんです」


皇妃候補であれば魔法を使えるのが大前提だろう。魔力は遺伝するため、より強力な魔法を使えるようになるには魔力保持者同士の婚姻が望ましい。
皇族は代々そうして力を強めてきたと聞く。


「ですが、その魔石は……?」


アガットはエリーヌの左手首のバングルに視線を注いだ。


「魔石のようで魔石でないんです。オーラを閉じ込めたものではあるのですが、魔力はないので」
「たしかに色がございませんね」


宮殿に仕え、大勢の魔法師と会う機会の多いアガットでも透明の魔石は見るのが初めてのようだ。不思議そうにそれを見つめた。


「私は、魔石研究所のダリル様に招待されたようなものですから」
「まあ、そうなんですか?」
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