皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「アンリ様とエリーヌ様は本当に仲がよろしくていらして、まるで本物の姉と弟のようでございますね」
「姉と弟?」


アガットに微笑ましい眼差しを向けられ、アンリは唇を尖らせた。
次期皇帝という自負があるのか、弟扱いはよくよく気に入らないらしい。


「ところでエリーヌ、その魔石、僕が初めて見たときより透明度が増してない?」
「そうですか?」


魔石をまじまじと見るアンリに首を傾げる。


「いや、透明度っていうか輝きかな」
「どうでしょう。私にはなんの変化も感じられませんが……」


光を帯びたように見えたのは、招待されたパーティーに出席したときだけ。それも錯覚を否定できないくらいに些細な変化だ。


「そう? それじゃ僕の勘違いかな。あっ、ほら、あれがシャルマン湖だよ」


馬車の窓からアンリが指差す方向に目を向けると、木々の合間にその一部が見えてきた。
< 140 / 321 >

この作品をシェア

pagetop