皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「とても思慮深くお優しい方なので、私は陛下と結婚してよかったです」


夫婦として成立していないが、その言葉に嘘はない。あれほど使命に燃えた真摯な人はいないだろう。

ニコライとセバスカル、アガットは顔を見合わせて微笑み合った。


「そっか」


すぐに前を向いてしまったためアンリの表情はわからないが、エリーヌの答えで希望を持ってくれたと信じたい。


「アンリ様、妃殿下、そろそろ休憩しませんか?」


馬車にはティーセットを積んでいる。景色の綺麗な場所で飲むお茶は、きっと格別だろう。
ニコライの提案にふたり揃って頷いた。


「このあたりがよさそうだね」


馬車まで引き返す途中でアンリが足を止めたのは、ちょうどいい木陰がある場所だった。
芝生とはいかないが、足首あたりの背丈の草が生え、いいクッションになりそうである。
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