皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
五年後には違うのよと心の中で呟きながら、それでも手を止めない。


「私がやりたいの」


食い下がるエリーヌに折れたのはアガットのほうだった。


「では、お願いします」


食器を片づけ、バケットを手に立ち上がる。


「アンリ様、出発の準備ができるまで少々お待ちください」
「うん」


ニコライの言葉にアンリは快く頷いた。
ブランケットを畳み、エリーヌたちはアンリをひとり残して馬車に向かう。


「久しぶりに宮殿の外に出て、とても楽しかったです」
「私もよ」


うれしそうなアガットにエリーヌが頷いたそのとき、なにかが空を切るひゅんっという音が聞こえた。
それに釣られて振り仰ぐと、目を疑うものが視界に映る。炎を纏った矢のようなものが飛んでいたのだ。
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