皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
目眩を覚えたが、今ここでエリーヌが倒れるわけにはいかない。意識をしっかり持ち、しっかりしなくてはと自分を鼓舞して彼らのあとを追う。


「セバスカル様、こちらへ横たえてください」


到着した馬車に乗り込み、エリーヌはアンリの頭を自分の膝に乗せ、傷口を布で押さえた。


「すぐに出してください」


馬車が発進した揺れで、アンリが顔をしかめる。振動が辛そうだ。


「アンリ様、大丈夫でしょうか……」


向かいの席から不安そうにアガットが見つめる。胸の前で握りしめた手は震えていた。
負傷したアンリにまで伝わってしまうだろうから、ふたり揃って不安になるわけにはいかない。


「大丈夫、きっと大丈夫よ」


自分にも言い聞かせる。
傷は深くなさそうだが、宮殿までこのままでいいようには思えない。一刻も早く治療が必要だ。
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