皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
エリーヌが薄っすらと光を纏っているのだ。窓から差し込む西日があたっているだけなのか、それともエリーヌ自身から発せられているのか。

(神様、どうかお願い、アンリ様の傷を癒して!)


スピードを出して駆け抜ける馬車の揺れにもかまわず、エリーヌは全身全霊で祈りを捧げ続ける。次第に視界が霞み、頭が白みはじめるが、今ここで止めるわけにはいかない。

魔力のあるなしに関わらず、強い祈りは届くと信じて――。


「到着しました! 妃殿下、アンリ様を!」


扉を開けたニコライがアンリを抱きかかえて馬車から降ろす。


「よろしくお願いします……」


薬師と治療師がいれば、もう安心だ。

そこまでどうにか意識を保っていたエリーヌだったが、アンリが運ばれたのを見届けたあと、激しい目眩に襲われた。


「エリーヌ様!? お気をたしかに! エリー……」


アガットの声が遠く、小さくなっていく。椅子に倒れ込んだ体を起こそうとするが、そのまま気を失った。
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