皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「お待たせするわけにはいかないから急ぐのだ」
「……はい」


会いたくないが、父の命令には背けない。ミュリエルは重い腰を上げ、階下へ向かった。


「これはこれはミュリエル殿、今日もまたお美しい。馬を飛ばして会いにきた甲斐があります」


ノーマンドは翡翠色をした目を細め、うれしそうに笑う。整った顔立ちだが、なにかを狙うような鋭い眼差しがミュリエルは苦手だった。


「光栄にございます」


心にもない言葉で返し、ミュリエルはドレスの裾を摘まんで膝を曲げた。


「今日は婚姻の日取りを決めに参りました」
「早速そのようなお話をいただけるとは、ありがたき幸せにございます。ところで鉱山の……」
「わかっております。あの山の利権は、私の義父となるあなた様のものです」


マルコリンが欲しい言葉をノーマンドはよく知っている。それを受けて、マルコリンは満足そうに深く頷いた。
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