皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか？

（きっとこのまま私は、ノーマンド様の元に嫁がされるんだわ……）

絶望的な気分がミュリエルの顔を曇らせるが、ふたりはそれに気づかず今後の話をどんどん進めていく。

戦いが終わるのは両国民にとっての幸せだとわかっている。ミュリエルがノーマンドと結婚すれば、必然的に鉱山の利権はマルコリンのものになり、戦う意味がなくなる。

それが国民を助ける、現段階における一番の策だと頭では理解していた。しかし心はマティアスから離れない。

（魔法なんて使えないほうがよかったのに）

そうすればノーマンドが鉱山を餌にマルコリンに働きかけることもなかっただろう。意味のない戦いはもちろん、マティアスと引き離されなかった。

（マティアス様……）

ミュリエルは心が引きちぎられ、まるで鋭利な刃物で身を切られたように痛かった。