皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
心の変化がもたらすもの


エリーヌがこのまま目覚めなかったら。
意識が戻らないまま命を落としたら。
そう考えると、リオネルは途方もなく怖かった。

(……怖い? この私が? なぜ)

抱いた感情が自分でわからなくなるほど混乱していた。

大陸を平定するまでの戦いで失った命は数知れず。人の生き死に鈍感になり、心を動かされることなどとっくになくなっていたリオネルは今、たしかに動揺している。

寝台に横になるエリーヌに息があるか不安になり、何度もたしかめては安堵を繰り返す。

きめ細やかな白い手を握り、目を覚ませと祈った。
今ほど回復系の魔法が使えない自分をもどかしく感じたことはない。

火も水も大地も風も、なんでも操れる金色の魔石にただひとつだけ欠けているものが聖なる力だった。
シャルマン湖でいったいなにが起こったというのか。
炎の矢は誰が飛ばしたものだったのか。

アンリはあのあと宮殿の治療院に運ばれたが、負った傷は大したものではなく薄っすらと血が滲んでいる程度だった。

ジャケットの破れ方や飛び散った血の量からは、考えられないほど浅いものだったのだ。
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