皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
前世の死闘
もはや一刻の猶予もない。このままではミュリエルを失うことになる。
ノーマンドがミュリエルとの婚姻を企てていると知ったマティアスは、国王である父・ステインに直談判に向かった。
ステインは王の間にひとりでいた。窓の外遠くに見える鉱山をじっと見据え、口元に笑みを浮かべる。
「父上、無意味な争いなど、もうお止めください。鉱山などくれてやればいいのです」
「無意味? なにを言っておる。鉱山の利権が国にどれほどの富を与えるか知らないとは言わせないぞ。国が潤うのだ。民のためなのだよ」
「ですが、このままではミュリエルはノーマンドのもとへ……!」
マティアスは握りしめた拳と唇を震わせた。
「お前にはまた相応しい姫を用意する。なんの心配もいらぬ」
「ミュリエルがいたからこそ、この国に平穏が訪れたのをお忘れですか?」
原因不明の病が流行り、ゆうに民の四分の一が亡くなった。マティアスの母も、その病に倒れ帰らぬ人に。
国が混乱に陥っている最中、嫁いできたミュリエルの聖なる力により病は消失。再び活気を取り戻してきたというのに。