皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
言いかけた言葉をぐっと飲み込んだオスカーとの間に、たちどころに不穏な空気が立ち込めた。


「オスカー大公、公務を放ってこんなところでなにをしているんですか?」


そばに掛け寄ったアンリの声色は、エリーヌの知っているものと違って低い。


「アンリ殿こそ、勉強のお時間ではありませんか?」


オスカーまで冷ややかな反応だ。

(やっぱりこのふたり、相容れない存在なのね)

リオネルが皇帝の座に就くとき、唯一反対していたのがオスカーだとエリーヌも聞いている。オスカーは、ゆくゆくはリオネルがその座をアンリに譲ることが解せず、アンリはアンリで、そんな彼を疎ましく思うのだろう。

ふたりが鋭い視線を絡ませ合う中、エリーヌはどうしたものかと頭を悩ませる。少し離れた場で見守るアガットも胸の前で両手を握りしめていた。


「あ、あの、おふたりとも、あの花たちをご覧ください。とっても楽しそうに風に揺れています」


険悪なムードを少しでも和らげようとにこやかに提案すると、ふたりはほんの僅かに頬を緩ませた。
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