皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「少し、あちらでお話しでもしましょうか」


エリーヌが近くのガゼボーを指差したそのとき、蹄を高らかに鳴らして近づいてくる馬がいた。いつもオスカーのそばにいる侍従だ。


「大公殿下、そろそろお時間です」


馬から降り立った彼が恭しく告げる。


「そうだな。では参ろう。妃殿下、私はこれで」


オスカーは待たせていた馬と侍従とともに宮殿のほうに走り去っていった。
彼の姿が見えなくなると同時にアンリが肩から力を抜く。


「油断ならないな」


耳を澄まさなければ聞こえないほど小さく舌打ちをし、ぼそっと呟いた。
天真爛漫なアンリの、べつの一面を垣間見たようで心がざわめく。


「アンリ様、今日はどうかされたんですか?」
「ひどいな、エリーヌ。お茶を飲む約束をしていたのを忘れたの?」
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