皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
つい先ほどまで見せていた攻撃的な眼差しが一点、いつもの無邪気な笑顔をエリーヌに向ける。


「そうでしたね」


忘れていたわけではないが、オスカーとアンリが思わぬ対面となったため、意識がそちらに飛んでしまったのだ。


「まぁいいけど。じゃあさ、せっかく外にいるんだし、今日は翡翠宮に来ない?」
「えっ、ですが……」


リオネルにひと言もなく翡翠宮に出入りするのは、よくないのではないか。


「宮殿の敷地内から出るわけじゃないんだから大丈夫だって。それともリオネルに、それもダメって言われた?」
「いえ、自由に出歩いていいと」


婚姻の儀のあと、リオネルはそう言っていた。部屋で過ごすように言われたのは昨日だけの話だ。


「でしょう? じゃあ問題なし。さあ行こう」
「ちょ、ちょっとお待ちください、アンリ様」


アンリがエリーヌの腕を掴んで歩きだしたため、引っ張られて足がもつれる。
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