皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「夢? エリーヌの? ……もしかしてエリーヌにも記憶が?」


アンリが目を細める。憂いを帯びているような、それでいて警戒しているような複雑な色をした瞳だ。


「記憶?」
「……前世の」


話が唐突に飛んだ気がした。


「ぜ、前世!? そんなまさか」
「その、まさかだよ。輪廻転生があるなら、その記憶を魂が持っていてもおかしくないと僕は思うけど」


ここミッテール皇国だけでなく、大陸では輪廻転生が信じられている。葬送の際には魂を鎮めるよりもむしろ、来世の幸せを願って祈るのが通例だ。
身分の高い者の場合、その祈りは三日三晩にわたって捧げられる。


「私は、その〝ミュリエル〟の生まれ変わりだと……? ただの夢じゃないんですか?」


まるで物語を読むように見る夢は、普通の夢とはたしかに違っている。その中でエリーヌはミュリエルであり、とてもリアルなのは事実だ。
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