皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
エリーヌはアンリを遮り、首を横に振った。

結婚したときにリオネルから期限付きの婚姻関係だと内密に告げられている。エリーヌもたしかに同意した。
国の混乱を招くのを避けるため、子どもを作らないことも。

しかしそのときが来て、予定通りにリオネルから離縁されても、エリーヌはもうほかの誰かの妻にはならない。なりたくない。

リオネルを愛する今の気持ちは、ほかの人では塗り替えられないのだ。たとえ自分がミュリエルの生まれ変わりで、マティアスの転生者が現れようとも。

アンリがマティアスだと聞かされたときに揺らいだ心は、不思議と元の状態に戻っていた。


「どうして」
「……陛下をお慕いしているからです」


正直に打ち明けた。
その気持ちに嘘はない。いくらミュリエルの生まれ変わりでも、現世のエリーヌはリオネルを愛しているのだ。

アンリが息を呑むのがわかった。その表情ににわかに影が差すと同時に、眼差しが微かに鋭くなる。怒りに似たものを感じた。

なぜだろう、アンリとも夢の中のマティアスとも別人のように見える。目の前にいるのはアンリに違いないというのに。
< 224 / 321 >

この作品をシェア

pagetop