皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「……前世がミュリエルとマティアスの敵も同然だからですか?」


アンリが頷く。


「僕たちに記憶があるなしに関係なく、言わないに越したことはないと思う。エリーヌを手に入れられたから、それで十分だし」
「ですが、陛下は」


〝私とは離縁するつもりです〟と言いかけて言葉を止める。その話はふたりだけの秘密だと約束したから他言無用だ。


「リオネルがなに?」
「あ、いえ……」


目を逸らして取り繕う。約束を破るわけにはいかない。


「エリーヌ、今すぐリオネルから離れて」
「それは無理です。私は陛下の妻ですから」
「だって、リオネルはノーマンドなんだよ?」
「陛下は陛下です」


たとえ前世がノーマンドだとしても。
エリーヌは自分にも言い聞かせるつもりで言った。
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