皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
ミュリエルが自分で、マティアスはアンリ。そしてあろうことかノーマンドはリオネルだという。
信じがたい話を聞かされたエリーヌは、自室に戻ってからもずっと考え込んでいた。
アガットが淹れた紅茶にも口をつけず、窓辺に立ち、外に広がる宮殿の景色をぼんやりと眺める。
アガットに声をかけられてもうわの空。興奮気味に態度を豹変させたアンリの様子も気になっていた。
そんな状態のままリオネルとの夕食を終えてもなお、エリーヌは心ここにあらずである。
「エリーヌ、なにかあったのか?」
リオネルに問いかけられ、エリーヌはハッとして我に返る。そこで初めて今いる場所がふたりの居室だと気づいた。
「あっ、いえ、なにもございません」
「先ほどから呆けたようにボーッとしたり、時折深く考え込むようにしたり。夕食のときなど、サクランボがあるのにも気づかなかっただろう」
「えっ、そうだったのですか? ぼんやりしておりました。ご不快に思われたのでしたらすみません」
「不快になど思わないから謝るな。エリーヌが心配なだけだ」
リオネルはエリーヌをソファに座らせ、自分もその隣に腰を下ろした。