皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
『リオネルはノーマンドなんだよ?』


不意にアンリの言葉が頭を過り、体が強張る。
前世は前世、今のリオネルはノーマンドとは別人だと自分に言い聞かせるが、夢で見たノーマンドの姿が重なり心は惑う。

そう言い聞かせているということは、前世と現世を割り切れていない証拠なのだろう。


「なにか心配事があるのなら話せ」


真っすぐに見つめる眼差しは、間違いなくリオネルだというのに。


「なにもありません。ただ……」


ふと、リオネルに尋ねてみたくなる。前世の記憶はあるのかと。

(でも、それを聞いてどうするつもり? もしも私やアンリ様のように記憶があって、それがノーマンドのものだと知ってどうするの)

自分は自分だと説き伏せたはずが、リオネルはノーマンドであってほしくないと願う矛盾がエリーヌを翻弄する。そして、そんな記憶などあってほしくないと願っていた。


「ただ?」
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