皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
鼓動が速まり、体じゅうを巡る血が温度を上げるのがわかる。その熱がエリーヌの手のひらに結集し、放たれる感覚がした。

そっと手を離し、彼の手を見る。


「……エリーヌ」


思わず口から出てしまったという感じにリオネルが名前を呼んだ。見開いた目を細め、エリーヌを見つめる。驚きと切実さが複雑に滲んだ瞳だ。

傷は跡形もなく消え去っていた。

エリーヌに限って言えば、前世はミュリエルだと認めざるを得ないようだ。たびたび夢に現れる記憶と透明の魔石、封印されてきた聖魔法が発現しはじめた以上、抗いようのない事実に思えた。

リオネルに呼び返そうとしたが、唐突に視界が揺らぎ、激しい虚脱感に襲われる。ひどい動悸に座ってもいられず、リオネルにもたれかかった。


「エリーヌ、横になろう」
「……すみま、せん……」


リオネルはエリーヌを抱き上げたが、それを止めることもできない。
逞しい腕に包まれ、鼓動がさらに速くなると同時に安らぎを感じた。
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