皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
(こんなにもあたたかいのに、陛下は本当にノーマンドの生まれ変わりなの? 前世でミュリエルとマティアスを引き離した、身勝手な人なの?)

前世の想いが現世に受け継がれるのだとしたら、ミュリエルだったエリーヌは、どうしてこんなにもリオネルが愛しいのか。

考えれば考えるほど心が迷い、わからなくなる。
リオネルはエリーヌを寝台に横たえ、そばに腰かけた。


「ゆっくり眠るといい。あまり無理はするな」


声を出すのもつらいため、瞬きで答える。

頬を撫でるリオネルの優しい手が、心には痛い。

これまでリオネルと過ごしてきた日々が、瞼の裏に浮かんでは消えていく。

初めて会ったとき、風に飛ばされたフランネルフラワーの髪飾りをエリーヌの髪につけてくれたこと。朝食に出されたサクランボの種を飲み込み、むせたエリーヌに優しく笑いかけてくれたこと。一緒に馬に乗り、風を切って走ったこと。
どの瞬間もエリーヌにとって大切なものだ。

そんな日々を思い返しながら、徐々に深い眠りに誘い込まれていく。


「やはりエリーヌはミュリエルの……」


幻聴か、はたまた聞き違いか。リオネルがそう呟くのが、遠くなる意識の狭間で聞こえた気がした。
< 234 / 321 >

この作品をシェア

pagetop