皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
高らかな嘲笑とともに氷の矢が放たれる。リオネルがシカに気を取られている隙を狙った攻撃だった。

リオネルめがけ、真っすぐに矢が飛んでいく。

(――陛下!)

膝を突きかけたリオネルが、振り向きざまに水刀を振りかぶる。

しかし、わずかに矢のスピードが速い。

(このままでは陛下が……!)

エリーヌは全身の血が逆流するような熱さを感じていた。

(陛下を守れるのは私だけ。……そうよ、私ならできる)

根拠のない自信が、体の奥底から溢れていく。鼓動が速い。

その音は耳の奥でこだまし、エリーヌはそれに後押しされるようにして両腕を空に向かって広げた。


聖なる護り(ホーリーガード)!」


自分でも知らない詠唱が、口から叫びとなって飛び出す。エリーヌの手のひらからは、眩いほどの光が放たれた。

夜を割き、光がたちどころにリオネルを包み込む。彼を狙った矢は一瞬のうちに光に溶けて消えた。
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