皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「そうだな。次期皇帝でありながら宮殿に火を放つなどもってのほかだ」
「じゃあ、どうして」
「償って生きろ。ノーマンドの記憶など捨て、アンリとして生きていけ」
「そんなこと簡単にできるわけがないだろ。僕だって忘れたいさ。だけど……!」


アンリは何百年もの間ミュリエルを追い続け、ノーマンドの執着に囚われ続けてきた。
それを今ここで忘れるなど、命を捨てるも同然なのだろう。

リオネルがエリーヌを見て頷く。

(……もしかして)

一瞬、意味がわからなかったエリーヌだが、彼の狙いを察知した。

気づかせてくれたのは、図らずもミュリエルの記憶だ。

エリーヌは乱れた呼吸を整え、先ほどのように両腕を天に向かって広げた。


「光よ、清らかなベールとなり魂を浄化せよ。神々しい福音(セレスティアルゴスペル)


透き通った声が空高く響く。
水しぶきが太陽で煌めくように、細かな光がアンリを包み込んだ。
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