皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
願いはひとつ
ひとつだけ灯したランプのやわらかな明かりが、リオネルの横顔をオレンジ色に照らす。ベッドに横たわるエリーヌを見つめる目元には、疲れと憂いが滲んでいた。
握った手を握り返してもらえない寂しさに耐え、ただ彼女が目を開けるのを待つ。エリーヌの白い肌から血色が失せないことだけが救いだった。
あの夜、エリーヌはアンリに聖魔法をかけたあとに力尽き、意識を喪失。深い眠りに入ったまま、いくつもの夜が過ぎた。
治療師によると体に異常はなく、あとは本人次第。体力の回復を待つ以外にないと言う。
リオネルも、アンリのように前世の記憶に囚われていたのだろう。エリーヌがミュリエルの生まれ変わりだと知り、そしてその記憶があると聞かされ、ドラマティックな再会に心が震えた。
仮初めの妻の役を課したエリーヌが、前世で添い遂げられなかった相手だったとは。
しかし時が経つにつれ、このまま目覚めないのではないかという恐怖がリオネルを怯えさせるようになった。
転生前のミュリエルの記憶がなければ、魔力が発現しなければ、こんな目には合わなかったかもしれない。
いや、それ以前にリオネルと結婚しなければ。もっと遡り、透明の魔石を所持していなければ……。