皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
一般の民ならともかく、ふたりはそれぞれの国の王子と姫。残さないほうが不自然だ。


「その昔、自ら命を絶った人間は忌み嫌われておりました。その家系の魔力に邪悪なものが混じると信じられたのです。おそらく歴史からふたりは抹消されたのかと」
「ちょっと待て。マティアスが命を落としたのは父親との死闘の末だ」


ダリルがその通りとばかりに深く頷くのを見て、リオネルはハッとした。


「……ミュリエルが?」


マティアスが愛していた妻、ミュリエルは自ら命を絶ったというのか。


「ここに書かれています」


ダリルが開いたページを指で差す。
そこにはマティアスの死を嘆き、母国の城近くの断崖絶壁から身を投げたとあった。

自害をよしとしない世の流れから、公の歴史書にはふたりの存在はなかったものとしたが、フローレス家に伝わるこの歴史書にはそれが残されていたという。
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