皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「ええ、そうです。ごく普通に数年前の思い出のように。陛下にはそれが夢として発現した。それもまた記憶の断片だと推察できるかと。これも私の私見ですがね、おそらく誰しもみな前世はあるのですよ。ただそれが現世の自分に記憶として残っていないだけ」


ダリルの推論はおおよそ当たっているように思えた。

やたらと臨場感のある夢は、今もなおリオネルの体に感覚として残っている。フローレス家に代々伝わる歴史書に、リオネルの知り得ない名前が残っていたのがなによりの証である。


「そなたが私の妃としてエリーヌを強く推薦したのは今の話があったからか」


魔石を持つ人間を皇妃にしたという事実が公には必要。だがしかしエリーヌの魔石には魔力がなく、魔力がなければ金色の魔石との相性を心配しなくてもいい。

たしかそんなことを言っていたと記憶しているが、それは表向きの言葉だったのだ。


「エリーヌもミュリエルの生まれ変わりだと?」
「それはなんとも言えませんなぁ。時代を同じくして転生するかどうか。ただ、あの魔石には魔力が秘められていると確信していますぞ。アンリ殿を回復させたのがいい例。それに瑠璃宮の花壇もそう」
「瑠璃宮の花壇?」
< 289 / 321 >

この作品をシェア

pagetop