皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「さすがに宮殿の敷地の中はどこもかしこも素晴らしいですね」
「エリーヌの言う通りだ。何度来ても、美しさには嘆息ものですな」


こうして上から眺めると、庭の木や彫刻が計算したうえで配置されているのがよくわかる。調和の美というのか、乱れがいっさいない。

つい見入って窓に近づき、真下を覗き込むと、あまりの高さに足が竦んだ。
乗馬の練習中に落馬したせいか、エリーヌは小さい頃から高いところが少し苦手である。


「慣れてしまうのも考えものですな。もう何十年も毎日のように通い詰めているから、改めて美しいなど感じないのですから。ところでエリーヌ殿、その後、魔石はどうです? なにか変わったことは?」


ダリルはエリーヌたちをソファに案内しつつ、早々に話を切り替える。彼がエリーヌを宮殿に招きたかったのは、やはり魔石が気になったためのようだ。その目が喜々として揺れる。

エリーヌはダリルの向かいにエドガーと並んで腰を下ろした。


「変わったことかどうかはわかりませんが、先ほど少しだけ光ったように見えて」
「魔石が光った?」
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