皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
不意に話が逸れたように感じ、目を細めて問い返す。


「先日エリーヌ殿が撒いた種が、もう花を咲かしているそうですよ。宮殿ではその話題で持ちきり。……おや、陛下はお気づきになりませんでしたかな?」


ダリルに指摘されるが、リオネルはその光景を知らない。

(なんたる不覚)

大局からどんな些細な変化でも見逃してはならないと、常日頃から心掛けているリオネルにとって、その指摘は耳に痛いものだった。しかもエリーヌが関わったもののため、余計に苦々しい。


「お忙しい陛下では無理もありませんな」
「いや、無論知っている」


咳払いをして体面を保ったが、ダリルは含み笑いをした。


「エリーヌが誕生してからというもの、ランシヨンでは水害がめっきりなくなりました。それも彼女の力のひとつに思えてなりません」


(そういえば……)

リオネルはふと、胸元にしたためたサシェを思い出した。
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