皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
宮殿に火が放たれたのは、翌日の夜。バルコニーでエリーヌと過ごしていたリオネルは、急いで駆けつけた宮殿で被害状況を確認してから翡翠宮へ馬を飛ばした。
バルコニーから見た矢は、翡翠宮から放たれたものだったのだ。
やはりアンリが関わっていたのか。それとも、ほかの人間か。
願わくは、アンリであってほしくない。
しかしリオネルの願いは、たやすく打ち砕かれた。アンリは侍従の目を盗み、忽然と姿を消していたのだ。火属性にわずかに混ざる氷属性の魔力を使った痕跡だけを置いて。
なによりもリオネルを焦らせたのは、アンリがエリーヌを連れ出したことだった。
母親が違うとはいえ、彼は弟。幼い頃からなにかと目をかけてきた。
そのアンリがなぜシャルマン湖で自作自演し、宮殿に火を放った挙句、エリーヌを連れ去ったのか。
かすかな魔力の波動を感じ取り、彼が向かった方向へ馬を走らせたリオネルはさらに衝撃的な事実に直面する。
〝あの〟ノーマンドはアンリに転生していた。
そしてダリルの予想通り、エリーヌはミュリエルの生まれ変わりだった。