皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
切実な目をしてリオネルを見る。

(うまく誤魔化された気がしなくもないが、まぁいいだろう)

リオネルはベッド脇の椅子に座りなおし、優しく微笑みかけた。


「アンリなら心配いらない。無事だ」
「転生前の記憶は……?」
「おそらくないだろう。天真爛漫なアンリそのものだ」
「そうですか。よかったです」


エリーヌは息を小さく吐き出し、長い睫毛を伏せた。


「処分は?」
「案ずるな。それも大丈夫だ」


あの夜、聖魔法を浴びたアンリはエリーヌ同様に意識を失った。

それまで浮かんでいた苦悶の表情は嘘のように消え、リオネルに見せたのはあどけない寝顔だった。
急遽、宮殿から呼んだ馬車に揺られているうちにアンリは意識を回復。


『僕、なんでリオネルと馬車になんて乗ってるの? えっ!? エリーヌはどうしたの!?』
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