皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
横たわる彼女を見て、気を動転させた。自分になにが起きたのか、まったくわかっていない。
エリーヌの魔法が功を奏し、彼は前世の記憶を断ち切ったのだ。

その後これまで通りの生活を送れているのは、宮殿に火を放ったときに誰ひとり負傷者が出なかったことが大きい。

だからといって犯人を隠蔽することは不可能。魔法騎士団をはじめとした宮殿内の人間には、アンリの魔力が暴走したために起きた事故だと説明した。

彼の水色の魔石に薄っすらと赤いラインが入っていることは周知の事実。これまで使えなかった炎の魔力が開花し、使い方を誤ってしまったのだとリオネルが説明すれば、信じない者はいない。


「エリーヌのおかげだ」
「いえ、私はなにも。陛下があの場に駆けつけてくださらなかったら、アンリ様はもちろん私もどうなっていたことか。本当にありがとうございます」


エリーヌは躊躇いがちにリオネルの手を取り、そっと包み込んだ。

(なんてあたたかい手だろうか……。私はこのぬくもりを手離したくない)

エリーヌを焦がれる気持ちが大きく膨らみ、それと同時に拒絶される可能性がリオネルを緊張させる。


「エリーヌ、大事な話がある」
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