皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
リオネルが居住まいを正すと、エリーヌもそれに倣って座ったまま背筋を伸ばした。


「なんでしょうか……」


リオネルのただならぬ雰囲気が伝わったのだろう。エリーヌから戸惑う空気が漂ってくる。


「結婚したときに交わした約束を覚えているか」
「もちろんです。陛下が皇帝の座を退いたときに離縁するという約束ですよね? それまで仮面夫婦を演じると」
「それを反故にしたい」


エリーヌはわずかに目を大きくした。その瞳には困惑が滲む。

自分の都合で離縁予定の婚姻を結ばせておいて、今度はその約束をなしにしたいなど自分勝手もいいところ。理不尽な願いと思われて当然だ。

エリーヌも同じ気持ちなのではないかというのは、自意識が過剰だったか。そうであってほしいと期待したが、もしやエリーヌはその約束通りにしたいと考えているのか。

恋愛とは無縁の人生を送ってきたため、リオネルにはエリーヌの心の動きが読めなかった。
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