皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「……どういうことですか?」
「エリーヌと離縁はしない。したくない。エリーヌを手離したくないんだ」
「それは、私がミュリエルの生まれ変わりだからですよね? そうだとわかったから――」
「違う」


思わずエリーヌを遮り否定する。


「私の前世がマティアスだろうとなかろうと、エリーヌを好きな気持ちに変わりはない。マティアスの記憶が蘇る前から、あんな約束などしなければよかったと後悔していたんだ」
「……記憶が蘇る前から私を?」


エリーヌが瞳を揺らす。


「ああ。エリーヌが誰の生まれ変わりだろうと関係ない。エリーヌとこの先もずっと一緒にいたいんだ」
「私もです。私も陛下をお慕いしています。前世に関係なく、誰よりも陛下を――」


矢も楯もたまらず、リオネルはエリーヌを抱きしめた。


「エリーヌ、愛してる」


彼女よりも先にそう告げたかった。
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