皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
「私も愛してます。一生おそばに置いてください」
「もちろんだ。絶対に離さない」


これほどうれしいことがほかにあるだろうか。
人生で初めて好きになった相手から、同じように好意を抱かれる幸せが。

愛や恋などと無縁で生きていくものだと思っていた。この結婚も、次の皇帝に引き継ぐための形式上のものだった。
こんなにも胸が熱くなるほど相手を愛しく思うなど、考えられない事態だ。


「エリーヌ」


耳元で名前を呼び、彼女をそっと引き剥がす。
間近で絡んだ視線が気恥ずかしいのか、エリーヌはぎこちなく目を逸らした。


「エリーヌにもうひとつ頼みがある。陛下ではなく、名前で呼んでほしい」
「恐れ多くて無理です」


エリーヌが首を小さく横に振る。


「そう言わずに頼む。陛下では距離があって嫌なのだ」
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