皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
繰り返し許しを乞うと、エリーヌはクスクスと笑いはじめた。


「なんだ、どうした」
「駄々っ子みたいだと思って」
「な、なにを言う。私が駄々っ子だと?」


柄にもなく狼狽えた。言われてみれば、子どもじみた言動だったと気づく。
一国の頂点である皇帝でありながら、そのような真似をした恥ずかしさが込み上げた。


「もうよい。今のは聞かなかったことにしてくれ」
「では、お名前で呼ばなくてよろしいのですか?」


小首を傾げて問いかける。
その愛らしさに胸が思いのほかくすぐったい。


「エリーヌが嫌ならば無理強いするつもりはない」
「嫌なのではなく、恐れ多いだけです。陛下がどうしてもとおっしゃるなら」
「どうしても、ではないが……」


本音を言えばぜひそうしてもらいたいが、あまり強く願えば、再びエリーヌに笑われてしまうだろう。


「では、このまま陛下と呼ばせてください」
「わかった」
< 302 / 321 >

この作品をシェア

pagetop