皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
心の内を隠して涼しい顔で頷いた。


「ありがとうございます。リオネル様」


エリーヌの最後のひと言に耳を疑う。なにも言えずに目を点にして彼女を見つめた。


「ふたりだけのときはお名前でお呼びしたいのですが、いいでしょうか?」


からかっているのではないかと一瞬疑ったが、そんなつもりはないようだ。エリーヌは無垢な目をして許しを請うた。


「好きにするといい」


平静を装いつつ、顔が綻ぶ。

産まれたときから国のために生きるよう教育されてきた。右も左もわからない、皇帝とはなにかもわからないときから徹底的に帝王学を叩きこまれ、自分のことは二の次だった。

感情をどこかに置き忘れ、いつの頃からか笑わなくなっていた自分が、自然と笑えるようになったのは、ほかでもなくエリーヌと出会ったおかげだろう。
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