皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
その日の夕方、意外な人がエリーヌの執務室を訪れた。
「大公殿下、ご無沙汰しております」
オスカー大公だった。
エリーヌがリオネルの元に嫁いだ直後から花を贈ってきたり、なにかと接触を図ってきたりした人物である。
「お久しぶりですね。連日、ここを訪れる人があとを絶たないと聞いています。妃殿下の噂で宮殿内は持ちきりですよ」
「もったいないお言葉です」
「まぁその中には、妃殿下にひと目でもお会いしたくて、仮病を使っている者もいるでしょうけど」
オスカーがハハッと高笑いする。
「まぁそうなのですか? でもそれも光栄なお話です。もっといろんな方たちとお会いしたいので」
「相変わらず謙虚ですね、妃殿下は」
オスカーはしみじみと頷きながら、エリーヌの前に用意されている椅子に腰を下ろした。
「ところで、どこかお加減が悪いのですか?」
「あぁ、いや。私も今話した人間のひとりです」