皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?
ダリルはどことなく曖昧に答えてから、唐突に話題を変えた。


「えっ? あ、いえ、特別なお話はなにも。風のいたずらで飛ばされた髪飾りを陛下が拾ってくださって……。無礼を働いてしまいました」


あのときはリオネルに冷ややかな目で見据えられ、全身がヒヤリとした。


「ほう、風がいたずらを」


まさに彼の言う通り。あんなところでいきなり風を吹かせないでほしいものだ。

(だけど、どうしてダリル様は私が皇帝陛下と対面したのを知っているのかしら。もしかしたら……)

エリーヌは窓のほうに視線を投げかけ、この部屋から下を眺めていたのかもしれないと思い至る。


「魔石が光ったのはそのときだったのだよ、ダリル殿」


エドガーは身を乗り出して、そのときの様子を語った。その少し前にもわずかに光ったのをエリーヌが目撃したのだと。
< 31 / 321 >

この作品をシェア

pagetop